新世界 下

新世界 下

マコト様巻き返しルートの下巻です。

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アラバ海岸の周辺にあるリゾート地へ向かう私たち。

今度は車ではなく、超大型戦艦『ビスマルク』を使って移動している。

マコト先輩が風紀委員会の4半期の予算の90%以上を投入して建造したこのデカブツは、アビドス廃校戦争では全くの役立たずに終わった。

厳密にはレッドウィンターからの支援物資を運んだりして活躍したが、その巨砲を生かす機会はなかった。戦闘面では本当に無用の長物だ。

しかし、戦後の今において、ビスマルクはゲヘナ学園の誇りにして強さ、そして平和の象徴として扱われている。

イロハ「先輩。燃費とか考えてないですよね」

マコト「・・・キキキッ。ああ。だがこの船にある『価値』を考えて行動している。・・・これはこの戦争におけるゲヘナ、そしてこのマコト様の勝利を象徴するものの一つだ。そしてこれからオープンするあのリゾート地は、新マコトタワー、パンデモニウム・ミュージアムに次ぐゲヘナ自治区の復興の象徴となるだろう!」

イロハ「・・・温泉開発部が来てめちゃくちゃになった所ですけどね。」

マコト「キキッ。そうだな。だがアレのおかげで、より良いリゾートができた。感謝せねばな」

壊された時はあんなにキレてたのに、随分と丸くなったなと私は思う。

『砂糖』の一件で攻撃性が上がった人はたくさんいるけれど、逆に下がった人は先輩だけだろう。

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ゲヘナ・ラグジュアリーホテル&リゾート

オープンセレモニー

私は舞台袖で、マコト先輩の演説に耳を傾ける。

マコト「今ここに新たなるリゾート施設のオープンを迎えて、大いなる期待を禁じえない。・・・」

演説のうまさを改めて実感させられる。

アビドス廃校戦争の時も、しばしば前線に行っては演説を繰り返し、周りを鼓舞してきた。

そのおかげが、開戦以降の万魔殿出身の反逆者は1名も出なかった。

マコト先輩の人望と言ったらそうだが、この演説センスが人望の要素になっていたことは言うまでもない。

マコト「奮起せよ!輝かしい明日に向かって邁進せよ!」

そう自信満々に言って締めくくる。

刹那、割れんばかりの拍手が会場を埋め尽くす。

ヒナ元委員長のピアノソロと同じくらいの拍手の音だ。

今まではこう・・・自信満々なマコト先輩は色々とガバガバなことが多く心配していたが、今は違う。なんだかその自信に安心感を覚える。

有事の時に大衆が求める強い指導者。

連邦生徒会長のように、人を引っ張る才のある人。

マコト先輩は超人ではないが、人を引っ張れる強い指導者なのだ。

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若干時間が押しているのもあり、セレモニーが終わってすぐ、私たちはミレニアムに急行した。

ミドリ「あっ来た!お姉ちゃーん!マコトさん達来たよー!」

モモイ「あ!いらっしゃーい!」

薄暗い、ナードな雰囲気が漂う部屋。

ここが今回の訪問先。

ゲーム開発部の部室だ。

この部活で主要な役割を務める才羽モモイが私たちを迎え入れる。

確か彼女は「砂糖」の汚染を受けていたが、治療の末立ち直っていたはずだ。

マコト「キキキ。できたか?「アレ」は」 

『アレ』とはなんだろうか。

ゲーム開発部に依頼したからにはゲームだと言うことは分かりきってるが。

流石にプロパガンダゲームを作らせるわけでもないだろうし・・・・

モモイ「もっちろん!今見せるから!」

部屋の中で待っていると、彼女はディスクを持って来た。

そしてハードの中に入れる。

モモイ「出来たよ!『アンハッピー・シュガーライフ』と、それのゲヘナDLC!」

すると、起動したのかタイトル画面の音がした。

タイトル画面に表示される『アンハッピー・シュガーライフ』の文字。

マコト先輩はモモイから受け取ったコントローラーを操作し、はじめるを押す。

するとポップアップが表示された。

導入しているゲヘナ版DLCの名前と、内容の説明が書いてある。

マコト「・・・・!」

少し驚きを見せる先輩。

マコト「・・・Endsieg・古代ゲヘナ語で『最終勝利』か・・・。キキキ。いいセンスだ」

嬉しそうにそう言う先輩。

モモイ「えっと、このDLCでは主役マコト先輩のコンテンツを増やしただけじゃなくて、他のゲヘナの生徒もプレイアブルにしていて、その人になった気持ちで選択を進めることができるんだ!開始時期は12月、開戦直前、北アビドスの戦い直前、春の目覚め作戦直前の4つ!エンディングはスパコンのおかげでこのDLCだけでも400通りもあるよ!ちょっと遊んでみて!」

マコト「キキキ。やってみせよう。」

めっちゃ嬉しそうな顔をしている。

マコト先輩が主役のDLCなのだ。

そりゃ喜ぶだろう。

イロハ「先輩。私にもやらせてくださいね。」

先輩の熱中する姿を見るのもまた一興だが、やっぱりこう言うのはやりたい。

30分後

マコト「キキキ・・・キヒャヒャヒャ!!!これを待っていた!!これこそこのマコト様が待ち望んだゲームだ!このゲームのおかげでこの私の活躍を知らぬ者はこのキヴォトスではいなくなるだろう!!!」

すると、ロッカーがガタッといった。

おばけでもいるのだろうか。

そう思いながら、先輩のコントローラを取り、私もやってみる。

説明によると、私のコンテンツも結構あるらしい。楽しみだ。

2時間後

楽しかったゲームの時間も終わり。

マコト「キキキ・・・・ゲームの制作感謝する。これの発売はいつだ?」

モモイ「明後日!もちろん、マコト先輩達は万魔殿の人数分予約してあるから、明後日の朝に寮に届くよ!」

今日1日の中で一番楽しかったイベントだった。

それにしてもフルボイスとは驚かされた。

5月の中頃、マコト先輩が私たちに台本を読み上げさせていたのはこのためだったのか。

そう思いながら、私たちはとある場所に向かう車に乗った。

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車内でマコト先輩は電話をしている。

マコト「キキキ。心配はない。経済支援の方は確実に行う。各地域の行方不明者の捜索もな。あと・・・何ィ?!ネフティスグループの救済?!・・・それはちょっと検討させてくれ。」

新しく生徒会長になった砂狼シロコとの電話会談は、滞りなく(?)進んだ。

戦後から抜け出すためには、アビドスの復興が最優先なのだ。

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とある場所に着いた。

着いてすぐ、先輩は自販機に走る。

そして缶コーヒーを買って戻って来た。

マコト「・・・キキキ。これは絶対必要だからな。・・・行くぞイロハ」

そう言うと、丘の方へ移動する。

丘に移動する間、私たちはずっと無言だった。

これから行く場所はわかっている。

わかっているから、無言になる。

やがてたどり着いた。

丘のてっぺん。木が2、3本生えているところに、空崎ヒナ元委員長の銅像と、墓標があった。

レッドウィンターの技術者が作ったらしいが、

かなりいい作りだ。それなら新マコトタワー前にある私の像ももう少し似せて欲しかった。

墓石の前に辿り着くと、先輩はその前に蹲踞する。

マコト「・・・キキッ。3ヶ月ぶりだなぁ?空崎ヒナ」

そう言うと、彼女は1本目の缶コーヒーを開けて、ヒナ元委員長の墓石にかける。

マコト「・・・私の勝ちだな。ここ半年のあれこれの結果、貴様の信頼は失墜し、このマコト様はついにゲームが出されることになった。もはや今後1000年、貴様に逆転の筋はない・・

キッキッキッ」

勝ち誇ったように笑いながらコーヒーを墓石にかける姿は珍妙だが、ようやく先輩の努力()が報われて名声でヒナに勝ったことを考えると、こんな笑いも別に流せる。

墓石を流れてゆくコーヒー。

缶コーヒーの中身はカラになってしまった。

それを見た先輩は、静かにため息をつくと続けた。

日没の夕日に横顔が照らされて、眩しそうだ。

マコト「・・・だがな、お前がいなくなってから面白みが減った。・・・風紀委員長のイオリは確かに強いが、単純で騙されやすい。正直お前にやったようなことをイオリにやっても可哀想なだけだ。」

誰にやっても可哀想だと思うんですけど、と言うことはさておき、確かにここ3ヶ月、マコト先輩は風紀委員会にいたずらをすることがなくなった。

マコト「・・・めんどくさがりで、武に優れただけで・・いやピアノもか。・・発言もつまらん、ゲヘナ生の大半からは不人気なお前が、こうもこのマコト様の記憶に残り続けるとはな。」

コーヒーは墓石の溝に入る。HINA.Sと書かれたアルファベットに色がつく。

マコト「・・・お前にとっては砂糖こそ至高だったのだろうが、この私にとってはお前こそ面白い人間だったのかもしれないな」

しみじみとした雰囲気が場を支配する。

そう言うのは1人でやってくれませんか?

すると、先輩は缶を握りつぶして立ち上がる。

マコト「あー!やめだやめ!この私にこんなしみじみとした雰囲気は似合わん!!!」

そう言うと缶を放り投げてしまう。

イロハ「ちょっと!不法投棄じゃないですか!」

咎めるを無視して、マコト先輩はもう1本を開け、飲み干す。

マコト「・・・・・ギィ!苦っ!!!」

マコト先輩が飛び上がるということは、よほどの味だ。

マコト「・・・・帰るぞ。イロハ」

カッコつけて帰っているが、2本とも不法投棄している。

丘の中腹にて、私たちはイオリと出会った。

あの頃よりも少し大人びた表情だ。

成長したというのだろうか。それとも疲れか。

イオリ「あっ」

マコト「ん、風紀委員長ではないか。先代の墓参りか?」

イオリ「・・・そうだ。何か?」

こんな感じで、今の風紀委員会と万魔殿は付かず離れずの関係にある。

昔よりは仲良くなったが、その分いたずらもできなくなった。

イロハ「・・・小鳥遊ホシノと浦和ハナコ、見つかりました?」

風紀委員会は火曜日の定期訓練を西アビドス砂漠で行っている。もしかしたら尻尾を掴めているかもしれない。

イオリ「全然だ。ヒナ元委員長みたいに死体があるどころか、装備や服すらも見つかってない。もしかし」

マコト「・・・キキッ。アビドスに例のミサイルを三発もぶちこんでやったんだ。跡形も残らずに消えたんだろう」

マコト先輩はイオリを遮り、どうせ跡形もないと、そう笑い飛ばす。

マコト「・・・それではな。風紀委員長よ」

私も頭を下げて、先輩に続く。

これが、戦後の1日だ。

これからの日々がもっと明るくなることを、私は願っている。

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用語集

新マコトタワー:終戦後に建設をされた超巨大な建物。今度こそ400メートル。キヴォトスの技術力を活かして3ヶ月で作った。

戦車旅団:万魔殿の戦力。新開発のE-50を配備しており、キヴォトス最強の装甲部隊である。旅団長は棗イロハ。

ミサイル部隊:万魔殿の戦力その2。ヘイロー破壊爆弾搭載型ミサイルがあり、戦争を防ぐ抑止力になっている。

ビスマルク:万魔殿の戦力その3。『道は続く』では出番なしだったあの超大型戦艦の名前。

タブレット:イロハがアビドス本校舎跡地の地下牢で拾った。愛用品。見覚えのあるロゴが裏に刻まれている。

自伝:マコトが自らの大活躍を後世にも残すために執筆している。タイトルは『パンデモニウム』

ゲヘナ・ラグジュアリーホテル&リゾート:マコトの絆ストーリーに登場。絆ストーリーでは温泉開発部にメチャクチャにされたが、この時間軸ではその温泉も活かし、戦後に完成させる。

1年若返り薬:リオの設計図由来。文字通り肉体年齢が1つ下がる。便利ねリオちゃん。

パンデモニウム・ミュージアム:廃校舎をリフォームし、博物館にした。

戦時中のマコトの命令書や地下壕での集合写真ヒナの装備などが展示してあるが、展示物の大半はイブキが描いた絵。やっぱりイブキファンクラブじゃねえか!

アンハッピー・シュガーライフ:22スレで出現したゲーム化概念。この世界で実現できる倫理観はともかく、マコトの出資により実現にこぎつけた。バニラ版の主役は先生と勇者パーティ。

Endsieg:↑のゲヘナ拡大DLC。マコトのコンテンツが増え、マコト以外もプレイアブル化された。ヒナ統治の砂糖漬けルートや無政府ルート、亡命ルートなどおつらいのも増えた。

ネフティスグループ:ノノミの企業。この時間軸では『砂糖』のせいで経営に大ダメージが入った。そしてその救済のために金をせがむシロコ会長。

缶コーヒー:ヒナが愛用していた缶コーヒー。普段飲んでたやつと似た味だったからよく飲んでたらしい。

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あとがき

末期ゲヘナシリーズで思いつく最終作です。もし春の目覚め作戦が成功し、マコト様が巻き返しに成功したらを書きました。

おそらく逃走失敗ルートやオデュッセイア耐久ルートやマコトだけ無事な激鬱ルートも考えれば出てくるかもしれませんが、砂糖漬けの描写がなかなか浮かばないのとマコトが砂糖漬けになる描写がもっと浮かばないので誰か他の人に託します・・・

マコト様巻き返しルートに入る条件は春の目覚め作戦を成功させることと、ヘイロー破壊爆弾の研究をそれまでに完了することです。

この世界は廃墟からの再建がキヴォトス各地で進んでいます。

かつての仲間と再開でき、再び部活を始められるようになった者、仲間を失ってもそれを糧に前に進む者、ちゅうぶらりんになった者と色々な人がいます。

リゾート地、ちゃんとオープンしました。やったねマコト!事業が増えるよ!

マコトどころか他全員が『砂糖』の一件はもう終わったことだと考えていますが、多分解決してないかもしれません。

現に、ホシノとハナコの死すらはっきりと確認できていません。

しかし彼らが幸せを享受し、明日に向かって前進してゆくので、多分これは光でしょう。

読んでくれてありがとうございました。

追記 各学園の状況

ゲヘナ:地上戦で焦土化した部分も多いがなんとか復興を進めている。復興に専念するためにかなり軍備を縮小したためゲヘナ自体は弱体化こそしたが、それでもキヴォトス最強の戦車旅団がある。マコトの万魔殿政権は安定していており支持率は58%くらいになった。また風紀委員会との関係も悪くはない。やったねマコト!覇権だよ!

トリニティ:スクエア以外瓦礫の山、行方不明者多数、パテル派壊滅と、最大の被害を被っている。ゲヘナの支援のもとサンクトゥス派が復権し、百合園セイアをホストとして発行を行なっている。

ミレニアム:引っかかったユウカも奇襲で捕まったノアも『砂糖』による肉体的、社会的ダメージが酷いため、コユキが会長代行を務め、ノア・ユウカが補佐する体制に。

赤冬:特に変わりはなし。強いて言うとプリンの流通量が3分の2くらいになった。

アビドス:シロコが会長となり再建中。行方不明者(約1万人)を4人で探す毎日。たまに万魔殿戦車旅団や風紀委員会が訓練がてら手伝ってくれる。

ん、ゲヘナはもっとお金を寄越すべき。

百鬼夜行:特に変わりはなし。ワカモが復学した。

山海経:『砂糖』の内容が内容なので玄武商会は怪しまれたがセーフ。申谷カイに本格的に嫌疑がかかっている。

ヴァルキューレ:特に変わりはない。ネムガキが真面目になったくらい。

SRT:ゲヘナによる再建案はある。

クロノス:キキキ・・いつか乗っ取る。

連邦生徒会:・・・。


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